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ゴキブリは排尿しない:その優れた代謝系が明らかに | WIRED VISION
ゴキブリの生合成経路。Blattobacteriumが関与していない機能は赤で示されている。
Image credit: PNAS
敵意に満ちた環境を生きのびるために、ゴキブリは自らに巣食う菌さえも利用する。1億4000年の昔からゴキブリの体内に住みついている細菌、Blattabacterium(ブラッタバクテリウム)のことだ。
Blattabacteriumのゲノムを解析した結果、この細菌はゴキブリの体の老廃物を、ゴキブリが生きていくのに必要な分子に変換していることが明らかになった。いわばゴキブリは身をもって、リサイクルの力を証明しているわけだ。細菌たちのおかげで、ゴキブリは排尿する必要さえないという。
「Blattabacteriumは、すべての必須アミノ酸、さまざまなビタミン類、およびその他の必要な化合物を、限られた種類の代謝基質から作り出すことができる」と、「米国科学アカデミー紀要」(PNAS)に掲載される研究論文には記されている。
ゴキブリが生きていくのに細菌を必要とすることは、すでに研究者の間で知られている。Blattabacteriumを抗生物質で殺すと、ゴキブリも死んでしまうからだ。また、ゴキブリは余った窒素を体内に貯蔵することも知られている。窒素はタンパク質、アミノ酸、およびDNAを作るのに必要な、生命に欠かせない元素の1つだが、ゴキブリはこれを尿酸の形で小分けにして体内に蓄えている。[ゴキブリではアンモニアが微量排泄されるが、尿酸は排泄されずに脂肪体内に蓄積され、窒素源の欠乏した状態に置かれると、アンモニア→アミノ酸に転用、再利用する。従って、ゴキブリは窒素を全く含まない餌上でも、半年近く生存できる]
しかし、この尿酸が貯蔵された後どうなるのか、そしてBlattabacteriumはゴキブリの体内でどのような働きをしているのかということは、これまで正確にはわかっていなかった。今回、Blattabacteriumのゲノムが解析されたことで、両者のつながりが明らかになった。この細菌は、尿酸の構成要素である尿素とアンモニアの分解酵素をコードする遺伝子を有していたのだ。さらに、そのようにして生成された分子を使ってアミノ酸を作ったり、細胞壁や細胞膜を修復したりといった代謝の働きを菌に行なわせる遺伝子も見つかった。
これによって、ゴキブリは窒素の乏しい栄養環境でも生きのびることが可能となっており、その能力は「各種のゴキブリの生息領域および世界的分布にきわめて重要な役割を果たしている」と、研究チームは記している。実際、その生息領域はすこぶる広大だ。ゴキブリには5000近くの種があり、それらが世界の大陸のすべてに、それも南極大陸にまで分布している。
Blattabacteriumはまた、ゴキブリを排尿という行為から解放していると、研究論文を執筆した1人で、カンザス州立大学の昆虫学者であるSrinivas Kambhampati氏は話す。ヒトやその他の生物では、有害な尿酸を水で薄め、尿として体外に排泄している。一方、ゴキブリはその水さえも節約している。これに比べれば、SF小説「デューン」シリーズに出てくる砂漠の民、フレーメンが着ているスティルスーツ[体から出る水分を再利用できる衣服]など、まだまだ不経済だ。
ゴキブリはその進化の結果、現時点ではBlattabacteriumに完全に依存した状態になっている、とKambhampati氏は言う。「ゴキブリは他の生物のように、自分でアミノ酸を作る能力を失ってしまった。このバクテリアなしでは生存ができない」
このことは、「ゴキブリを直接殺すのでなく、Blattabacteriumの働きを何らかの方法で阻害する」ような殺虫剤の開発を可能にすると、Kambhampati氏は話す。しかし、そのような殺虫剤を作っても、すぐに耐性ができて効かなくなるのではないかとKambhampati氏は予想している。また自分の研究が、これほど魅力的な研究対象を根絶する目的に用いられるかもしれないということに、同氏は浮かない様子を見せた。
「ゴキブリ種のうち人間と関わっているのは5〜6種類にすぎないが、残念なことに、彼らの不評が、森林に平和に暮らしている他の4900種のゴキブリたちにも迷惑を及ぼしている」と同氏は述べた。
ヒトゲノムの3D構造は「丸めた麺のようなフラクタル」 | WIRED VISION
ヒトゲノムを数百万の断片に分解し、その配列をリバース・エンジニアリングする手法により、ゲノムの3次元構造の画像が、かつてないほどの高解像度で作成された。
再現された構造は目を見張るようなフラクタル形状をしている。この手法を使えば、ゲノムのDNAの内容だけでなく、ゲノムの形状そのものが、人間の発達や疾病にどのような影響を及ぼしているか調べることが可能になるだろう。
「染色体の空間構造が、ゲノムの制御に非常に重要だということが明らかになった」と、「Science」誌の10月9日号に発表された今回の研究論文を執筆した1人で、マサチューセッツ大学医学部の分子生物学者であるJob Dekker氏は話す。
初歩的な生物の教科書や、一般の人々のイメージの中では、ヒトゲノムは23対の染色体におけるDNAとタンパク質の複合体[クロマチン]の中に収められ、それら染色体はきれいなX型をして1つ1つの細胞核の中に並んでいるように描かれている。しかし実際には、そのような状態になるのは細胞が分裂しようとしているごく短い間だけだ。それ以外のとき染色体は、絶え間なく形を変えるかたまりとして存在する。むろん、染色体を構成するひも状のDNAも、密集してかたまりになっている。ゲノムを端から端までまっすぐに伸ばすと、約2メートルほどの長さになる。
何十年も前から、一部の細胞生物学者たちの間では、ゲノムが圧縮されているのは効率よく保存するための仕組みというだけでなく、遺伝子の機能や相互作用そのものに関係しているのではないかと考えられてきた。しかし、それを突き止めるのは容易ではない。ゲノム配列を解析しようとするとゲノムの形状が壊れてしまうし、電子顕微鏡では活性表面の下をほとんど見通すことはできない。その構成要素は知られていても、ゲノムが本当はどんな形状をしているのかは謎のままだった。
ゲノムの構造を直接見ることなく解明する方法として、研究チームはまず細胞核をホルムアルデヒドに浸した。ホルムアルデヒドはDNAと相互作用して接着剤のような働きをする。これによって、ゲノムの直鎖状配列では離れているが、実際の3次元のゲノム空間では近接している遺伝子どうしがつなぎ合わされた。
研究チームはその後、ホルムアルデヒドによるつながりは残したまま、直鎖状配列の遺伝子どうしのつながりは分解するような化学物質を加えた。その結果、ペアになった遺伝子の集まりができあがった。それはちょうど、麺を100万もの細かな層に切り分けて混ぜ合わせ、ボール状に凍らせたようなものだった。
遺伝子のペアを調べることで、元のゲノムではどの遺伝子どうしが近接していたのかが特定された。ソフトウェアを用いて、遺伝子ペアをゲノム上での既知の配列と相互参照した結果、ゲノムのデジタル立体構造が組み立てられた。その立体は目を見張るようなものだった。
「どこにも結び目がなかった。絡み合った箇所が1つもない。麺を驚異的に密集させて丸めたボールのようでありながら、その麺の一部を引っ張り出したり戻したりできる。しかも、全体の構造は全く崩れない」と語るのは、論文の共同執筆者でハーバード大学の計算生物学者であるErez Lieberman-Aiden氏だ。
これを数学的に説明すると、ゲノムのこれら断片は折りたたまれてヒルベルト曲線[フラクタル図形の1つ]に似たものを形成している。ヒルベルト曲線は、決して重複することなく2次元の空間を埋め尽くすことのできる図形の一種だが、同じことが3次元で行なわれているわけだ。
研究チームはまた、染色体には2つの領域があることも発見した。1つは活性化した遺伝子の領域で、もう1つは不活性な遺伝子の領域だ。そして、絡み合うことなく作られた曲線のおかげで、遺伝子はその間を容易に移動できるようになっている。
Lieberman-Aiden氏はこの配列を、大きな図書館に隙間なく並ぶ電動の本棚にたとえた。「それらは書架のようなもので、上下左右に隙間なく積み重なっている。そしてゲノムがある遺伝子の一群を使いたくなると、それが収まっている書架を開く。ただしゲノムは書架を開くだけでなく、図書館の新しい場所に移動させる」
活性化した遺伝子と不活性な遺伝子の領域を区別していることは、ゲノムの構造そのものが遺伝子機能に影響を及ぼしていることの裏付けとなる。
ゲノムの形状と遺伝子的な機能を結びつけて研究することで、「直鎖状配列」のみに焦点をあててきた従来のゲノミクスによっては不明だった疾病と遺伝子との関係も解き明かされていくだろうと期待されている。研究チームはさらに、ゲノムの形状がどのように変化するのかについても研究したいと考えている。幹細胞から成熟細胞に変化する間、そして細胞が機能している間、ゲノムの形状は常に変化しているとみられているが、詳しいことはわかっていない。